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「緊急避難」と「緊急事務管理」の法理により、責任は免除

旅行や出張などの交通手段として航空機の利用が一般的になって久しいですが、フライト中の急病発生に伴う医療援助にかかわる法律の整備は、依然として手付かずのままになっています。

法的整備がなされていないのが現状

高齢者の旅行が増えるのに比例して、フライト中のドクターコールの絶対数も増加しており、ドクターコールに対する医師や医療関係者の関心は高まっています。

日本の航空会社が発表した統計によると、ドクターコールの頻度は、国際線で1000フライトあたり5.43件となっています。国内線と国際線を合計すると、この5年間で約700件のドクターコールがあり、医療援助の申し出は89%、そのうち医師の申し出は61.8%でした。

機内サービス等のアルコールの影響下で急に起立した際の意識障害をはじめ、腹痛・背部痛、嘔吐、胸痛、呼吸困難が多くなっており、そのうち死亡したケースは4件のみです。

ドクターコールに遭遇した医師は、心肺停止⇒CPRの不安が頭によぎり、緊張すると思いますが、一般病院のERと同様に、99%は命に関わることはありません

しかし、現実には、心肺停止のケースに遭遇することもあるので、機内の医療援助を積極的に考えている場合は、適切な胸骨圧迫マッサージ、AEDの使用方法、気道の確保、人工呼吸を身に付けている必要があります。

医師の方が一番気になるのは、機内での医療行為に伴う法的責任だと思います。
英米では、「急病人を救うために、善意で行った医療行為に関して、誠実に行ったものであれば、悪しき結果となっても責任は問われない」という"善きサマリア人の法(ルカの福音書に由来)"があり、アメリカでは航空機内医療援助法として明文化されています。

日本はどうでしょうか? 明文化された法律はありませんが、刑法上では「自己または他人の生命…(中略)…に対する現在の危険を避けるため、やむを得ずした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない」という37条第1項の"緊急避難"が採用され、責任は免除されます。

民法上でも、「…悪意または重大な過失があるのでなければこれによって生じた損害を賠償する責任は負わない」という698条の"緊急事務管理"の法理が採用されるため、善意における行為での責任は免除されています。

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